B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2012/10/09

映画「TIME/タイム」(In Time)

内容は知らなかったが、時間を売買いする話というので興味を持ち、DVDを借りる。
寿命(時間)を通貨のように使うというのは、私には気持よくなかったし、ヒロインの吹き替えがあまりも・・と思ったし、途中からアクションが多くなってくると、前半とは別の映画を観ているように感じてしまった。

でもこの映画、どこか「ガタカ」のデザインにそっくりという点が気になって調べたところ、まさにその「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督の作品だった。気がつかなかった。
英語版/日本語字幕で観直す。

■物語
時代は近未来、人間の寿命は25才まで。以後は働いて寿命を稼いで生きてゆくが、見かけは変わらない。報酬として時間を得、時間で物を売買いしている。そんなある日、スラムに住む主人公のウィルは特別区からやってきた男から100年分の時間をもらってしまう。ウィルは時間監視局員(タイムキーパー)に追われる事になる。スラムでは長い寿命を持つ事は認められていないのだ。

ウィルは手に入れた時間(通貨)を使って特別区に向かう。特別区に住むのはスラムから時間を搾取して長寿を得、高級生活を送る人間たち。ウィルは時間銀行の頭取とゲームを行い、娘シルビアと親しくなるが、時間監視局員に追いつめられ、彼女を人質に逃亡するはめになる。

時間監視局員の追跡やギャングの襲撃を受ける2人。初めて寿命が減る体験をしたシルビアと、増える体験をしてしまったウィルは、お互いを理解し始める。ウィルは寿命相撲のバトラーだった父を思い浮かべるようになる。父はバトルで得た寿命を貧しい人々に分け希望を与えたいと考えていたのだ。

2人は協力して時間銀行を襲い、そしてシルビアの父がスラムから搾取した100万年の寿命を持ち出して人々に分け与えてゆく。寿命搾取時代は終わりを告げようとしていた。

なぜ:
最初に述べたように、この映画は傑作ではない。それが何によるのかはわからないが、気になったのは、途中からアクションが多くなり、戦いによって誰かを倒したり、戦いによって何かを解明するような結末を期待させてしまっているのではないかという事だ。

アクションとは逃亡シーンや銀行襲撃シーンのことだが、このシーンの間に何度か挿入されている2人の会話には、この物語の裏に流れている重要なメッセージが含まれている。またシルビアの父の話す言葉も、不老不死に関わる内容で聞き逃せない。アクションシーンを半分にしてこの部分が引立つように編集できなかったのだろうか。そうしたら「ガタカ」にもどってしまうのか?

■アンドリュー・ニコル監督の世界
1. テーマ
監督の世界は十分に発揮されている。"選ばれし者と野生の強者の対立"は「ガタカ」と同様のテーマだ。さらに今回は"不老不死"を持込んだ。

2. 特撮やCGを使わないSF映画
選び抜いたロケ地に、ちょっとしたセットを追加して近未来を出現させる監督の腕前は見事だ。古い車。古い車のフロントとリアのデザインだけ変更した時間監視局員の車。調度品。古い拳銃(ナウシカのガンシップのルーツの様な)。工場、高速道路、橋など。
特撮やCGを使わずに近未来世界を構築するテクニックを挙げればきりがないだろう。「タイム」には「ガタカ」に見られたアンドリュー・ニコル流デザインが満載だ。腕に浮かぶ数字の時計もCGとはいえ新鮮だった。

3. キャスティング
美男美女ばかりというのは嫌いじゃない。デヴィット・リンチだって、ロマン・ポランスキーだってそうだ。「ガタカ」のヒロインはロシア的だったが、シルビアも東洋的で未来的だ。年寄りが出ない映画の気味悪さもいい。

■最後に
映画「タイム」については、「気がつかなかった」、「傑作ではない」、と言ってしまった後、懸命にフォローしたつもりだが、最後に何を言えばよいのか。

私は最近、監督でも作家でも、つくる物すべてが傑作で無くて良いと思うようになってしまった。だから傑作「ガタカ」を作ったアンドリュー・ニコル監督にもそれは求めない。
デジタル機器を使っていると、我々は何でも自分の思うようになってくれるという錯覚に陥らないだろうか。またいつも同じ事をしてくれると。映画にさえ。しかし作品においては、作る側と見る側には超えられない壁があった方がいい。それがお互いを自由にしてくれる。

アンドリュー・ニコル監督は、「ガタカ」で多くの観客に感動を与えれくれた。「タイム」でもそのスタイルは健在だ。結果はともあれ、私は次も観る。野球ファンのように。
★★★★